映画ナポレオンを観ました
光栄のゲーム、ランペルールからナポレオンに入った私。そこから30年ほど少しずつナポレオン戦争を勉強してこの時代のファンです。とは言え、一番に好きな人物はフランスのタレイラン、二番目はイギリスのウェリントンで、ナポレオンが一番好きな訳ではありませんが。
何はともあれ、映画ナポレオンを観に行きました。
ナポレオンがテーマの映画という事なので、鑑賞前から、戦争より人間模様、特に妻ジョゼフィーヌとの関係性を強くテーマ性にしてあり、地味なはずと推測しておりました。案の定、ドンパチ目当ての映画を期待すると裏切られる内容です。
また、ナポレオン戦争前のフランスは絶望的な農村の貧困、コレラやペストの流行、王朝に対する憎悪、それによって引き起こされたフランス革命、フランス革命からのロベスピエール筆頭とする恐怖政治、内乱、イギリスなど他国からの侵略など、最悪期です。
そこにトゥーロン包囲戦での勝利始め、明るい話題をもたらしたナポレオンこそが救世主であり、人々の希望が星になったという背景を理解しないと、この作品楽しめません。ナポレオンが何故魅力的だったかの描写が一切無いからです。
この映画は、ナポレオンがトゥーロン包囲戦で大勝した後、ジョゼフィーヌとの馴れ初めから始まります。ジョゼフィーヌはフランス総裁バラスの愛人ですが、説明はなく、映像から察して下さいという感じです。また、ジョゼフィーヌは姉さん女房ですが、映画では明らかにナポレオンの方が老けすぎている事は、後半の描写に必要なので仕方ありません。
このバラスという人は悪政で名高いですが、表面上は「フランス共和国のために頑張って欲しい」というスタンスをナポレオンに言いつけます。この真面目系クズな雰囲気が良い感じで表現されてました。
途中、エジプト遠征ではジョゼフィーヌ宛てに書いたラブレターがイギリスに捕獲されて新聞に掲載されて赤っ恥をかいたり、ジョゼフィーヌの浮気騒動で慌ててフランスに戻ったり、ナポレオンの人間臭さが良く描写されてます。
また、ナポレオンの話で欠かせないのが名宰相、天才外交官のタレイランですが、タレイランはナポレオンに持ち掛けてクーデターを起こし、フランスを掌握します。
ナポレオンを国家のトップに据える事の問題として、ナポレオンはコルシカ島出身の田舎者なので、フランスを掌握するには身分が低すぎました。このため、ナポレオンを皇帝にさせる必要があり、タレイランはその準備をします。そして戴冠式を経てナポレオンは皇帝になるという史実が描かれておりました。
ちなみにこの戴冠式ですが、映画の中では右下の方に画家が居ます。この画家、ご存知の人ならば感動すると思いますが、ジャック・ルイ・デビットですね。
この戴冠式の絵は実際にジャック・ルイ・デビットが描いたものですが、映画ではこの視点の位置にジャック・ルイ・デビットが居て絵を描いているのです。最後のクレジットロールでも、きちんとこの名前は有りました。貴族達の服装も豪華絢爛ですし、描写が細かいです。
その後、アウステルリッツの戦いで圧勝したり、オーストリア、ロシアと同盟結んだりなど、対英包囲網構想で順調に欧州を掌握するナポレオン。アレクサンドル1世が肖像画そっくりで笑えます。美男子で少しニヒルなヤツです。
対オーストリア、対ロシア中心に戦後処理や外交があるものの、描写はほとんど無く、天才外交官のタレイランさんが後は上手いことやってるから察してね、という感じです。
脳内補完がとにかく大事な映画であるとこの辺から気付きます。はっきり申し上げて、ナポレオン戦争期の歴史の予備知識無しでは無理な映画ですね、これ。
史実ではジョゼフィーヌにナポレオンは振り回されていたようですが、作品では、ジョゼフィーヌ無しでは腑抜けのナポレオンという描写です。アゲマンかサゲマンかでいうと、ジョゼフィーヌはナポレオンの脚を引っ張るサゲマンな訳ですが、しかし、不妊である事を理由にジョゼフィーヌと離婚してから運に見放され、ロシア遠征で大敗を喫するなどしてフランス皇帝の座から追われてしまいます(一応、流刑先エルバ島での皇帝という扱いです)。
サゲマンかと思っていた妻ジョゼフィーヌが実はアゲマンだったのですよね。実際、魅力的なジョゼフィーヌを慕っていた兵士も多く、ナポレオンの離婚を知ってがっかりしたそうです。
エルバ島脱出後に持ち前の魅力でナポレオンを捕まえに来た新政府軍を逆に味方に付けてパリに行進していくナポレオン。再び腐敗してしまった新政府に嫌気がさしてナポレオンに掛けた兵士が多かったそうです。
また、ナポレオンは一度兵士と会話したら、その兵士の名を忘れなかったそうです。映画にも「君は○○の戦いで健闘していた人だね」みたいな描写でその様子がさり気なくあります。ナポレオンは3時間しか眠らなかったと言われてますが、この一人一人の兵士の活躍を記憶する事にもかなり多くの時間を費やしていたそうです。皇帝から名前を覚えて貰っていたら、それは命掛けても良い、となりますよね。
こうしてフランス軍を再結成してナポレオンはワーテルローの戦いでウェリントン率いるイギリス軍に挑むのですが、苦戦。タヴー(作中で説明無いが、メガネのおっさん)と、ネイ(同じく説明無いが、最後まで勇敢に戦った騎兵の将軍)の敢闘虚しくプロイセン(ドイツ)軍が援軍として来て完敗。後に捕虜となるナポレオンはセントヘレナ島に流され生涯を終えます。
ナポレオン最期の言葉が「ジョゼフィーヌ」だったという事ですから、世の最果てのセントヘレナ島で先立った最愛の妻への思いが募って非常に苦しかったという事でしょうね。孤独でつらい最期だったと思います。
ジョゼフィーヌとナポレオンの関係を考察すると、夫婦間というのは嫌な事が目に付き易いですが、それを観て妻の事をサゲマンだと早合点してはいけないのですよね。サゲマンだと思っていた妻が実はとんでもないアゲマンかも知れません。この妻への愛が、この映画のテーマですし、ナポレオンを理解する事に不可欠な事です。
映画の内容はここまでです。
ちなみに、私が何故、タレイランを一番に推すかという事ですが、フランスがこれだけ連合軍に蹂躙されたのに領土を失わないように外交で上手く賠償問題を避けた事が天才的過ぎたからです。また、命が狙われそうな時、たまたまアメリカに行っていて運が良かったり、ずっと最高権力者で在り続けるのも天才的です。さらに、決してフランスの為だけに働く訳でもなく、ちゃっかり私利私欲も満たして居たり、常人とは思えない魅力があるのです。
二番目のウェリントンは、基本的な能力はナポレオンに負けてませんし、兎に角強かったから推してます。兵站、補給、撤退、防御、攻撃の基本を徹底的に押さえてナポレオンに勝ったのがウェリントンです。また、ウェリントンはこの時代としては珍しく、敗者を許し、人道的に扱った事も大変立派です。
私は常々申してますが、近代戦に於いて、戦いに強い将校は必ず敵味方無関係に人道的です。ウェリントンはその人道主義的将校の最初期の1人であったために、ナポレオンに勝ちました。
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