準富裕層と発達障害児

準富裕層、3児の父。準富裕層であれば発達障害児を救えるのかを検証するブログ。

開戦前夜を観た

ひろみつ

NHKエデュケーショナル制作の映画作品、『開戦前夜』を観ました。


1941年、日米開戦突入直前に官民エリートで構成、された、日米総力戦が行われた場合をシミュレーションし、結果を予想させる組織、『総力戦研究所』をテーマとした物語です。


民間人が居たため、実名を公開することは難しいと思われること、および脚本によって個人の尊厳が傷つけられるリスクがあることから、史実を元にしたフィクション作品であることが特徴です。


(実際、この作品で登場する飯村穣中将の子孫から、高圧的、強権的に描かれているところは、事実と異なると訴えられてます。)



このような背景があり、完全な事実ではない上に、不適切な脚色があることは明白である本作品をレビューすることは最初からハードルが高めです。ただ、この作品は当時の開戦不可避の空気感に視聴者を触れさせる、という点がこれまでの戦争もの作品との大きな違いでしょうか。


総力戦研究所は、日米開戦前に机上演習で、日本必敗を予見した功績が現在まで語り継がれております。そして、それとともに何故、予言しておきながら戦争回避ができなかったのか。ここまでがセットで語られることが多いです。


総力戦研究所という、物々しい、少し威圧的な名前であることや、総理大臣直轄機関であったということが勘違いを生むもとになっていますが、この機関は権力中枢ではなく、どちらかというと若手エリートの育成学校であった模様です。実際、設立当初は総力戦研究所ではなく国防大学にする案もあったらしく、それならばそういう誤解はなかったことでしょう。


(我々が想像する総力戦研究所的なシミュレーション機関はどちらかというと秋丸機関だと思います)


この作品の中では、若手エリートたちが架空の模擬内閣を組閣し、兵力、経済力、生産力、石油在庫量、船舶数、各国の趨勢と言った国家の最高機密を特別に官公庁や民間から提供されて、当時としてはあり得ない本物の情報だけで開戦の可否、および開戦後の戦況を予測していきます。


日米国力比は、経済力10倍、飛行機10倍、自動車生産力500倍、石油に至っては天文学的数値である700倍。アメリカは半日で日本の1年分の石油を生産できてしまうという化け物国家であることが判明。しかも、日本の石油や鉄は多くがアメリカからの輸入に頼っており、開戦と同時に(実際は南部仏印進駐で開戦前に早々、日本向け石油禁輸の制裁)資源を失うことから長期戦は不能。インドネシアの石油を確保したとしても輸送船不足からやはり資源確保は無理であるということが判明。


このほか、ロシアやイギリスに対し快進撃を続けるドイツは既に石油が枯渇しているために戦争継続力がなく、近いうちに降伏に至る。その場合、ロシアが対日参戦するため、四方から連合国に囲まれた日本は3、4年で国家としての体を為してないレベルの敗戦をするという結論に至りました。


この結果を東條内閣総理大臣に報告するも、「これは机上の空論とは言わんが、単なる数字である。戦争とはやってみんと分からん」と一蹴されます。しかし、東條は昭和天皇から戦争回避を図るように申し付けられており、それをよく理解したうえでのこの発言でした。事実、一見、明らかに軽視したかのように見えた総力戦研究所のタウンページのように分厚い報告書を、部屋に持ち帰ってからシワシワになるまで読み込み、ため息をつくシーンがあります。これが報告書を良く読んで理解するという、几帳面だった東條の性格を無言で示しており、私はこの映画で一番特筆すべきシーンだと思いました。


総力戦研究所の研究はそもそも国家運営を考えるものではない位置づけだったため、史実は例によって予測どおり開戦、そして完膚なきまでの敗戦となりました。開戦時期も敗戦時期も的中。予測と外れたところは原爆(と真珠湾奇襲)だけです。


よく、第二次大戦の日米開戦は特定の誰かが悪かったと言われがちですが、恐らく、この映画のテーマ「空気」によって開戦に至ったというのはその通りでしょう。構造的に国際情勢、アメリカの国家的価値観、国内の軍、経済、民意、資源、すべて構造としてがっちり戦争を目指しており、その中で例えば総理大臣一人の意見だけではどうしようもないイメージです。例えば、トンネルの漏水をガムテープ一枚貼れば止められる訳ではないイメージに近いです。


すでに中国に進駐していた日本兵には多くの犠牲が出ており、予算も220億円注ぎ込んでおり、アメリカの要求通りに満州から撤退しても、軍がクーデターを起こして日本は分裂。分裂したタイミングで列強に侵略されたというオチになっていたでしょう。


私が思うに、226事件で統制派の支配が強まった時に既に日本の敗戦に至る道は決まっていたと思います。あるいは、それ以前、昭和初期の東北地方の悲劇的な飢饉で人々の絶望や、満州に活路を求め、また226事件に至る流れがあったので、この東北地方の飢饉からの人々の閉塞感が大きかったとも言えます。あくまでも日本側からだけの視点なので、アメリカ含めると全く違いますが、少なくとも日本側ではその可能性が高いです。


今回、NHK制作ということで偏りがあるのではないかと心配でしたが、実際、この話のなかでは本当は友好的であった飯村穣所長や陸軍関係者が高圧的に描かれ過ぎていることや、昭和天皇役を、敢えてなのか韓国にルーツを持つ俳優を起用するなど、思想的意図を感じずには居られない場面もありました。しかし、全体的には、戦争は引き起こそうとした誰か責任者が存在していた訳ではなく、空気によるものだったというテーマを比較的公平に描写していたかとは思います。日本が悪かったという、安直、単細胞な結論ではなく、構造の問題として考察していたストーリーなので、そこはいいと思いました。



【個人的に】

満州進駐で220億円戦費を費やし、戦争するのにお金がない、という話で研究所の所員が頭を抱えるシーンがありましたが、私はすぐに国債発行と税金、あとはインフレ経済導入すれば容易に戦費調達できると思って見てました。実際、国債発行と税金の話は出てきました。私の予想的中。


私の頭のなかの数値ですが、日米の経済比や各資源生産比もオーダー単位ではほぼ正解。死者数もほぼ正解。意外ときっちり数値として覚えていてました。


映画の中で、120万トンの船舶が沈められたとき、何人の船員が死ぬのか計算したことがありますか?というシーンがあります。これを今、計算してみましょう。当時、戦艦を例にすると概ね船1万トンにつき500人の船員がいたと思いますので、500×120=6万人くらい。戦艦は船員が多いので輸送船はその半数、3万人くらいと推測。


AIに聞きましょう。


ローテーションや補充を含めて、常時約2万5,000人〜3万人の船員


だそうです。ほぼ的中。こういうフェルミ推定は、株や経済を勉強してかなり上手になってきました。